木の家|木割れの音や反り縮みのお話。
たま〜に、こんな事を聞かれる事がございます。
夜、寝室で寝ようかと思ったら、すごい大きな「バチーン!!」と言う音がしたんです!
家が壊れているんじゃないかと思って・・・
なるほど(笑)
確かに、いきなり大音量の音が鳴るのは、びっくりしますよね。
しかも、見えない構造体の方から音が鳴る訳ですから。
普通に考えて、驚かれるのも無理が無いでしょう。
この大きな音が鳴る原因は、柱や梁、土台から出された音なんです。
やっぱり!
だったら、うちの家は大丈夫なのでしょうか?
取り替えてもらった方が良いんですよね?!
と思う方もいらっしゃるでしょう。
結論は。
特に問題ではありません。
って事です。
では何故にそうした音が鳴るのかって事なのだけど。
木材って言うのは、いろんな産地があって。
まともな木材であれば、少なからず50年以上を産地で生息する訳です。
良く言われるのは、山を育てる山師さんが居て。
木の苗をおじいさんが植えたのであれば。
それを伐採するのはお孫さん世代と言うのが、生産者である方々のお約束と言われています。
それだけ時間が掛かりますので、おいそれと木が育つ訳ではありません。
それでも、日本は比較的若い木材の伐採をしてるんですよね。
そして必ずしも産地が建築地と一緒である事は、なかなか無いかと思うのです。
産地と建築地が違えばどの様なデメリットがあるのでしょうか?
当然ながら気候風土も違います。
音が鳴る原因の一つとして、そこに順応しようとしている証拠。
とも言えるでしょう。
それだけではいまいちピンと来ないかもしれませんので、申し少し突っ込んだお話をしてみましょう。
音が鳴る原因は、たいていの場合芯持ち材に多いと思います。
これ、中尾建築工房の事務所にある神奈川県産材の檜(ひのき)です。
断面を見ると、ひび割れがあるのをお分かりになりますか?
これが芯持ち材特有の、クラック(ひび割れ)だったりします。
木材も人も似た様なもんでして。
芯がある木は、強度的に強いのです。
人も一本、筋が通ってる人って。
説得力があったり。
周りには人が付いて来たりしますもんね。
その反面、芯持ちは独特の個性もあるって事だから。
どの様な癖があるのかは、人と同様に木材もそれぞれです。
今では人工的に乾燥材を造れる良い時代になったのですが。
50本の柱があれば、それぞれに癖がある訳で。
その癖を見込んで、4寸角に仕上げたい柱だったりすれば。
5寸とか5寸5分と、大き目に製材をして人工乾燥機に入れて乾燥させるのです。
しっかりと乾燥させた後。
歪みや反りが出た木材を、再度製材させるんです。
けれども、木の個性が無くなるほど、乾燥させてしまったりすれば。
当然ながら、強度は失いますから。
そもそも、建築材としては機能しない材となる。
言ってみれば、現代の木材乾燥技術では、ギリギリまで挑戦をした材を建築材として使われているんです。
それでも音が鳴る。
これを無くすのであれば。
今の様に簡単に家を建てれる時代ではなく、過去の住宅を建てる際の事情に戻る必要があります。
例えば自分の家の近くの山で採れた丸太を、自宅の敷地に櫓(やぐら)を組んで並べておくのです。
並べた木材を何年もかけて、じっくりその場で天然乾燥させます。
大き目に製材させてからも、さらにじっくり天然乾燥させます。
木材の動きが、そろそろ止まったかな〜となりましたら。
そこから墨付け刻み(木材の加工の事)を行っていけば良いのです。
そのかわり、いつまで経っても家は建ちませんけどね(笑)
ぶっちゃけ、2〜3年どころの話ではございません。
5〜6年は掛かるんじゃないかなぁ。。
昔は人工乾燥の技術すら無かった訳ですから、それこそ家の中は大合唱で当たり前でした。
つまり現代のテクノロジーでは、最高の技術で木材が造られている訳ですから。
音が鳴ったから、柱や梁がおかしいとか。
土台が駄目だーって事では。
無いと言う事なんですね。
音が鳴る、木材の軋む様な音がする。
それはあくまでも、その環境に適応してくれているのだと言う事。
むしろ喜ばしい事なんだよね!
俺ん家、しっかりとした家になる為に適応してくれてるんだねー!って感じ。
私が現役大工だった頃。
築60年〜築100年とかの家を改修して来たのだけど。
集成材は別として。
無垢の材料に関して言えば、年数が経過すればするほど。
柱のサイズは縮んでいるし。
その代り、カチンカチンでノコギリの刃が立たないなんて事も良くありました。
つまり、めっちゃ強くなっていると言う事なんです。
そこにたどり着くまでは、その木材たちもそこそこ。
バチーン!
とか。
ピキッ!!
とか。
合奏していたのは間違い無いんです。
木材の縮みや反りに関してもね。
宮大工で人間国宝であり、文化財保存技術者でもある西岡常一棟梁はすごかった!
ユネスコ世界遺産に指定されている奈良の薬師寺。
そこには西塔と東塔と二つの塔があるのですが。
その西塔を西岡常一棟梁が建て替えをしたのです。
そして竣工したのですが。
なんと図面を引いた一級建築士の指示とは、まったく違う高さで塔を建ててしまいました。
これは決して、西岡棟梁の間違いではありません。
今後の長い年月をかけて、500年先。
そして1000年先には、設計通りになると言って建築されたのです。
これには設計を担当した一級建築士も、言葉が出ないですよね(笑)
と言う事で、人間国宝の宮大工、西岡棟梁も極めていた木の縮みや反り。
決してね。
悪いモノでは無いんだよ。
と言う事でございます。
むしろなんだな。。
これだけ強い木で家が建てれて良かったーと。
なる方がよろしいかと思います!
元大工の棟梁であり、現場での事故から設計や施工管理に携わることになった私からの木材講座でございました。