自然な素材で建てる注文住宅なら湘南の湿気やカビ対策は可能なのか?
自然な素材で建てる注文住宅なら、湘南の様な湿気の多い風土でも大丈夫だろう。
そう思って、自然な素材を使って注文住宅を建てる方が増えています。
ですが自然な素材を使ったからと言って、必ず湿気やカビ対策が完全であるかは分かりません。
そこで今回、OBオーナー様から定評のある中尾建築工房から。
自然な素材の中でも、湿気やカビに悩まない快適な住まいを手に入れる事が出来るか。
そんな事をご紹介してみたいと思います。
1.適材適所の使い分け
自然素材なら何でも良いかと言えば、家の水分をコントロールする上ではそうではありません。
最初に木を採用すれば、湿気やカビとは無縁になれるかお話をしますね。
はっきり言います。
どんな木を使っても、湿気やカビとは無縁になれる訳ではありません。
木材は水分を多く含んだ木材もありますし、人工的に乾燥させた木材もあります。
水分を多く含んだ柱や梁などの構造で家を建てた場合、家の周りは水分でラッピングされているのと同じ事と言えます。
この事を念頭に、順を追ってご説明してまいりましょう。
まずは構造に採用する無垢材で、どの様なモノを使えば良いのか考えてみましょう。
土台には、油分の豊富な材料を使いましょう。
通気性の良い基礎であれば、床下となる土台に油分は不可欠です。
ですから乾燥釜(ボイラー)の中で、水分や油分を強制的に無くした材は使わない方が良いと思います。
また土台はアンカーボルドで固定される材料です。
基礎ともしっかりと緊結されますし、構造体の重量を支える材でもあります。
この場合でおすすめ出来るのは、天然乾燥をさせたヒノキやヒバを採用するのが良いでしょう。
くれぐれも乾燥釜(ボイラー)の中で、水分や油分を強制的に無くした材は止めましょう。
せっかく油分の豊富な材を選んだ意味がありませんし、何よりあえて良い部分を捨ててしまっていると言う事になります。
これらは構造の材料ですが、どの様な材料を選んだとしても必ず人工乾燥させた材が良いでしょう。
天然乾燥させた材をこれらの部分に採用すると、天然乾燥させた材は並行含水率と言って含水率が変化します。
※平衡含水率とは
一定の温湿度の中に長時間放置すると、最終的に外部空気の温湿度とつりあって安定する含水率の事。
一度は目標の含水率まで乾燥をさせるのですが、天然乾燥材はどうしてもその場の気温や湿度によって含水率が戻ってしまいます。
この様な場合で未乾燥の柱や梁を使って、新築工事を行えばどの様なことになるでしょうか。
天井裏や壁の中に隠れた構造材やはがら材は、水分を抱えたまま塞ぐ事になってしまいます。
そのままでは強制的に水分を出そうとしない限り、水分が無くなる事はありません。
ですから土台よりも上に使われる材に関しては、必ず人工乾燥させた材料を選ぶ様にしましょう。
私はもともと現場で作業を行う大工の棟梁でした。
人工乾燥と天然乾燥、どちらの材も自らの手で触って来た経験があります。
天然乾燥の材料はそれなりに水分がありますから、鑿切れも良く施工もしやすいです。
乾燥材は反対に、乾燥して固い状態ですから作業性は悪いです。
昔から職人が苦労をして建てた家は、施主が住みやすい。
逆に職人が楽して建てた家は、施主は住みにくい。
そんな名言なども、職人の世界には残っていいます。
ですから私は職人が人工乾燥させた材料を苦労して刻む家の方が、施主が住む事を重視すれば当たり前の事だと思います。
では家を建て終わった後に、天然乾燥と人工乾燥の家ではどの様な差があるのでしょうか。
壁や天井裏に水分を抱えている状態です。
それが石膏ボードや断熱材で囲まれていますので、壁の中に水分がある状態を作り出します。
家を建てる現場が湿気の多い場所であったりすると、天然乾燥材にはカビも生えます。
そのまま塞げば、見えない場所に水分を残してあるというリスクが付きまといます。
また内装が漆喰や珪藻土の場合で、暖房を強めに上げたりすれば柱や梁が動きます。
その結果はどの様になるのでしょうか。
- 内装のクラックの原因になる
- 柱が捻れて石膏ボードの継ぎ目に段差が出来る
- 家鳴りが頻繁に起きる
※家鳴りとは?
柱や梁が乾燥していく際に、家鳴りと言うラップ音を出す事が当たり前の様に起きます。
家鳴りは人工乾燥させた材料でも、室温に差がある場所で発生したりもします。
天然乾燥材の家鳴りと人工乾燥させた材の家鳴りを比較すると、天然乾燥材の方が強烈な音を出し続けます。
この様なデメリットが起きる事が予測できます。
家の中にクラックが起きれば、心配になってしまいますよね。
壁の段差も新築なのに、傷モノになった感じが否めません。
家鳴りに関しては下手をすると夜中に暖房をカットして就寝する際、バキッ、メキッと言った様にうるさくて眠れない事にもなり兼ねません。
2.どうして含水率の高い柱や梁を使うの
工務店さんによってまちまちなのですが、含水率の高い柱や梁を使うのは主に三つの理由があると思います。
天然乾燥材と人工乾燥材は見た目にも色が違いますので、見る人が見れば一目瞭然で分かってしまいます。
木目や色合いが綺麗に出るのが天然乾燥材です。
人口乾燥材の色合いは、燻製にした様な色合いになります。
卵で例えるなら、分かりやすいかもしれません。
普通の卵の色
燻製にした卵の色
見た目的には、普通の卵の色の方が綺麗に見えるでしょう。
木材で例えるなら、普通の卵の色合いが天然乾燥材の持つ色合いです。
人工乾燥させた材の色合いは、燻製にした卵の色合いです。
これらと同じ様に人工乾燥させた材の場合、見た目の色味が変わってしまう事から、天然乾燥材にこだわりを持つ工務店も居ます。
天然乾燥と人工乾燥させた材なら、人工乾燥させた材の方が価格が高くなります。
乾燥釜に材料を入れる分だけ、手間暇が掛かります。
乾燥釜に入れた後の材料は、熱によって捻れや反りが多く出てしまいます。
その分は製材作業で捨てられてしまう為、無駄も多くなるのが価格に反映されるからです。
ですから価格を下げる為に、天然乾燥材を使うのが理由の一つにあります。
おまけで言えば、天然乾燥材やグリーン材と呼ばれる水分のある材料は、加工性がとても良いのが特徴です。
水分が多いですから鑿切れも良いです。
主にこれらの材料で建てる工務店の場合、墨付けや刻み作業を自社で行うケースでしょう。
これがこだわりと言えば、こだわりとも言えるでしょう。
でも施主にとっては、リスクを教えてもらわない状態で家を建てているのと同じ事だと思ってしまいます。
丸太や太鼓梁などを、現わしで見せる特徴の工務店にありがちです。
正角や平角の材料なら、乾燥の釜に入ります。
ですが丸太や太鼓梁の場合、なかなかその様に出来る材木店が少ないの現状です。
それが工務店側では当たり前なので、特にそれがデメリットとして紹介はされないでしょう。
「何年か経過すれば、いずれ水分は抜けるからだいじょうぶ。」
家を建てた後に聞いてしまうと、少し無責任に感じるかもしれませんね。
生活する方にとっては、デメリットしかありません。
- 壁にクラックが入る
- 家鳴りがする
- 水分が抜けない
- 湿気が多い
- カビも生えやすい
いくら自然な素材で建てた注文住宅と言っても、目線が違えばこれらのデメリットは残ったままです。
3年程度で落ち着くか。
それとも5年ほど掛けて落ち着くか。
※昔の大工の言い伝え
昔は地場で伐採した木を使って、家を建てると言われておりました。
その木で家を建てるなら、5年ほどかけて家を建てると言う言い伝えがあります。
生の木ですから、じっくりと時間を掛けて水分を抜くと言う意味合いの言葉です。
水分の多い木で家を建てる場合、この様なデメリットがある事を覚えておきましょう。
3.住宅とお寺は用途が違う
人工乾燥された材と、天然乾燥された材の違いをここまでご説明して参りました。
それでは何故、その様な材で家を建てる事になるのかを知る必要があるかと思います。
お寺などの様に寺社仏閣を建てる場合、人工乾燥された材ではなくて天然乾燥された材で組み上げて行きます。
お寺は住宅と違って、木目の美しさも重視します。
一本一本の柱や梁、丸桁(がぎょう)、大斗(だいと)、各種垂木、桔木(はねぎ)は、魅せる様に作るのが目的です。
木材の見た目を損なってしまう乾燥釜に入れるのは、躊躇したくもなるのが大工の本音と言えるでしょう。
ただしここで、明確に分かる事があります。
お寺の様な寺社仏閣と、住宅では用途が全く違います。
寺社仏閣では風通しの良い建物を造りますし、そもそも断熱性がありません。
構造自体もその場の気温と湿度に順応して行きますから、特に問題も起きません。
雨が降れば雨にも晒されますし、台風が来れば湿気も吸い込む事になります。
まさにありのままの状態で、そこに存在し続けます。
永きにわたってその場に馴染みながら乾燥して行きますので、寺社仏閣の場合はそれでも良いのです。
では住宅の場合はどうでしょうか。
住宅は人様が生活をする場所ですから、寺社仏閣の様なありのままの状態と言う訳には行きません。
皆さんは家を建てる時、どの様な要望があるでしょうか。
私が住宅の設計施工の依頼を受ける際、多くの方に質問を受ける事があります。
「床暖房は入れられますか?」
「えぇ出来ますけど、無垢材のフローリングで床暖房対応のフローリングは大変少ないです。
もしくは表面3mm程度が無垢材で、あとは合板のフローリングなら対応する商品があります。
本物の無垢材で程度の良いフローリングなら、フローリングの下に捨て貼りをする事で床暖房の対応させる事も可能です。」
こんな会話を頻繁にする事があります。
皆さんの意見で共通しているのは、床暖房ではなくとも住宅に必要な性能として、暖かい家と言う性能が挙げられるのではないでしょうか。
暖かい家を造る場合は断熱性をしっかりと対策すると共に、その空間には熱源が必要になります。
床暖房でもエアコンでも、薪ストーブやペレットストーブでもなんでも構いません。
これらの熱源が、構造体に与える影響はなんでしょうか。
もうお分かりになるかと思うのですが、住宅の場合は外壁や断熱材で家をラッピングします。
そして室内は暖房も行います。
室温がいきなり温められたるする事で、柱や梁が動いたり、壁に亀裂が入ったりします。
もちろんバキッ、メキッと言うような家鳴りは、もれなく付いて回ります。
住宅の場合は、人が快適に住む事が前提にあります。
お寺の様な造りの家は、見栄えは良いかもしれません。
ですが住んでみれば、住みにくい家とも言えるでしょう。
4.後々生活が始まって驚かない様に
「家を建て終わって、ようやく落ち着いた時間が始まるなぁ。」
そんな時に後悔しない様、しっかりと知識を持ってくださいね。
無垢材にこだわって、家を建てたとしましょう。
まさかその家で、湿気やカビに悩まされる様ではどうでしょうか。
実際に人工乾燥をしてない材料で家を建てれば、構造体自体が水分を多く抱えている訳です。
昔の家なら、この様な事は当たり前の様にありました。
でも今は昔の家の様に、隙間だらの家ではありません。
すべてにおいて、断熱性能を持つのが当たり前の家になりました。
私たちの暮らす湘南や三浦半島の家は、湿気やカビに悩まされる事が多い地域です。
水分を多く含んだ構造体には、湿気が増す事でカビが生えるかもしれません。
柱や梁自体が水分を含んでいますので、そもそも湿気などを調湿するゆとりはありません。
その反面で柱などの木目は、とても綺麗な仕上がりが得られる事でしょう。
あなたは木目の美しさを取りますか。
それとも湿気とは無縁の生活をしたいのでしょうか。
漆喰と珪藻土の成分にもよるのですが、大きな違いは成分だけではありません。
漆喰の仕上げは表面に存在するであろう多孔質な穴を、金鏝によって密閉させて仕上げている様な物です。
それに比べて珪藻土の方は、木鏝や金鏝でふんわりと仕上げるのが大きな差です。
漆喰の様に押さえつけて仕上げませんから、珪藻土独特の多孔質な穴が塞がりませんので、調湿には有効です。
私は自社の家にはドイツ漆喰やイタリア漆喰を採用しているのですが、成分自体は国産漆喰と同じ石灰系の素材です。
それを漆喰仕上げの様に仕上げた家と、珪藻土の様なふんわりとした仕上げをする事があります。
明らかに室内の空気は漆喰仕上げよりも、珪藻土の様な仕上げの方が調湿効果が高いのもわかりますし、室内の空気感も全然違います。
- 漆喰でフラットに仕上げる
- 木の露出が多い仕上げ
- お寺の様な雰囲気
この様な家を建てた場合、しばらくの間は湿気やカビと共存する事になってしまいます。
そうなればご自身で所有されているであろう靴やバック、旅行かばんに冬場のコートなどなど。
ありとあらゆる貴重品が、カビによって廃棄しなくてはならない事も考慮しておく必要があります。
私の個人的な意見を述べておきます。
私はもともと大工の棟梁でしたので、無垢材を使わせたらお寺の様な家を造るのが本当は大好きです。
ただしそのニーズがあまりにも無い事。
これらのデメリットを最初に知っていれば、その様な家は皆さんがあまり望んでいないと言う事。
だったら湿気とは無縁で、室内が調湿出来て暖かくしても支障が無い家の方が良いのでは無いか。
そう思って、今の中尾建築工房の家を建てています。
全ては暮らしやすい、過ごしやすいを念頭に置いていますので、これから先もお寺の様な家を建てる事は無いかもしれません。
でもやっぱり個人的に大工の意見として言わせて頂けれると、その様な家のリクエストがあるのは嬉しかったりします(笑)
これは施主様のリクエストにより、数年前に私自身が施工を行った日本霧除けです。
吉野桧の材料を自分で選んで、乾燥している材だけで製作を行いました。
触った感覚だと、含水率15%程度だったと思います。
このレベルならカビも生えませんが、20%近い場合はカビなども付きやすくなります。
すべての材を吉野桧で製作したので、作業期間中の一週間は楽しい大工生活でした。
自然な素材の家は建てたいけど、寒かりな方ってとっても多いと思うんです。
私と対面された方なら「筋トレをして代謝をあげた方が良いですよ」って言われた方も居らっしゃると思います。
最後にお伝えしたいのは、含水率の高い家と言うのは、基本的にしばらく寒い家になります。
木材の中に居るのは、多くの水分ですよね。
水は空気に比べて、20倍は熱伝導率が高いのです。
熱伝導率の値が大きいほど移動する熱量が大きく、熱が伝わりやすい訳ですから。
含水率の高い木材で家を建てると、寒さもしっかりと室内に伝わると言う事を覚えておいてくださいね。
5.まとめ
いかがでしょうか。
自然な素材で注文住宅を建てた。
それでも必ずしや湿気やカビと、無縁にならないケースがある事をご紹介差し上げて来ました。
含水率が高い材料で家を建てるリスクを、最後にまとめさせていただきます。
- クラックが入りやすい
- 湿気が絶えない
- カビが生えやすい
- 家鳴りがひどい
- 寒くなりやすい
私はもともと大工の棟梁を務めあげて、建築設計事務所や工務店の代表を務めています。
私にとって適材適所の木使いは、人様に対しての気遣いと大差ありません。
ですからごり押しで、自社のこだわりを押し付けるつもりもありません。
ぜひ、あなたの要望に沿った自然な素材の住まいを手に入れてください。
もしもあなたの周りにしっかりと要望を聞いてくれる人が居なければ、中尾建築工房までご相談ください。
私は頭の固い大工棟梁と違って、あなたの悩みや相談を聞く耳を持っています。