腕の良い大工が居なくなる?!|需要に対して追いつかない大工の人数と未来はどうなる?
新築やリフォーム、リノベーションなど、大工と言う職業は無くてはならない職人さんの中でも頂点の職種に当たります。
その大工の中でも誰もが腕の良い大工さんに担当を務めてもらいたいと思うのが心情だと思いますが、腕の良い大工が減少しています。
ではなぜ腕の良い大工が減少し続けて、しまいには居なくなるのだろうか?
そんな部分に焦点を当てて、日本経済新聞のニュースを挙げると共に、地元で大工の棟梁を務め上げていた私から詳しい解説を行いたいと思います。
1.40年前の3分の1
住宅の建設や修繕の担い手である大工が減っている。
2022年末公表の国勢調査によると、20年時点で30万人弱と過去20年で半減した。
賃金水準などの待遇改善が遅々として進まず、若い世代が減り、高齢化が一段と進んでいる。新築建設では、すでに不具合の増加が一部で指摘されているほか、今後は6000万戸超ある既存の住宅の修繕の停滞も懸念される。国勢調査によると、大工の人数は20年時点で29万7900人。
40年前の1980年と比べると約3分の1の水準だ。
建設業の労働環境に詳しい芝浦工業大学の蟹沢宏剛教授は「建設・土木作業員全体でも人数は減っているが、減り方はピーク期の300万人超から200万人弱へとおよそ3分の2の減少だ。
大工の人数の落ち込みは著しい」と話す。
日本経済新聞「大工が20年で半減 若者敬遠、住宅修繕の停滞懸念」から抜粋
この様な報道がなされている事は、あまり世の中では知られていないのかもしれません。
実は現在の大工さんと高度経済成長期以前の大工さんとでは、立場が大きく変わってしまっています。
まだハウスメーカーなどが誕生する前と言うのは、どの地域でも大工さんが家のリフォームやリノベーション、そして新築を建てるのが当たり前の世の中でした。
工務店の社長は大工の親方でしたので、若い大工さんたちを采配しながら、協力業者をまとめるスキルを持っていた方達ばかりの時代だったのです。
そこで高度経済成長期に掛けて国が不足する住宅を建てられる様、建材メーカーを後押ししたり、ハウスメーカーなどが誕生する様になりました。
ここで大きく建設業界の仕組みが変わる事になってしまいます。
ハウスメーカーは職人さんではなく、住宅を販売するプロになります。
さらに国が支援をしておりましたので、資金も豊富な事から成長拡大をする事につながりました。
ハウスメーカーはその後も勢力を拡大しましたので、利益を追求し続けて今日に至ります。
では大工さん達はハウスメーカーの受注が多い中、どの様に変化をしていったのでしょうか。
大工の親方が個人の方が仕事を頂く形から、ハウスメーカーや建設会社から仕事をもらう下請けの立ち位置になってしまったのです。
事実私も大工の修行を始めた際、建設会社の大工見習いとして修行に入りました。
ですがその建設会社は職人さんの人数は多いけれども、お客さんと言えるのが元請けと呼ばれる不動産会社が紹介する建設会社から仕事を貰っていました。
つまりは元々は個人から仕事をもらえていた大工の親方が、ハウスメーカーや不動産会社とタッグを組んでいる建設会社から仕事を貰わざる得ない状態に追い込まれたのです。
腕の良い大工さんはエンドユーザーに説明するのが苦手な方が多く、言葉で語るより仕事で語る。
そんな方が多い時代でしたので、だんだんと下請けに回る大工さん達が増えていったのです。
2.大工の高齢化が際立つ
大工はほかの業種より高齢化も際立つ。
20年時点で大工の約60%が50歳以上で、うち30%超は65歳以上だ。
一方、30歳未満は7.2%にとどまる。「このままなら、35年前後に約15万人となり、40年代前半には10万人を切る水準まで減る」
若い人材が入ってこない一因は、待遇改善が遅々として進んでいないことだ。
建設職人を中心に構成する全国建設労働組合総連合(全建総連)の調査では、大工の年収は最新の21年で、雇用される労働者は約364万円、「一人親方」と呼ばれる個人事業主は約424万円にとどまる。
いずれも電気工や鉄筋工など、ほかの分野を含む平均年収を下回っている。
蟹沢氏は「建設業全体では過去約10年で待遇改善は進んだが、小規模事業者が多い大工はこの流れに取り残された」と指摘する。
賃金だけでなく、社会保険への加入が徹底していないほか、長時間労働などもなお目立つという。
大工減少は何をもたらすのか。住宅は経済波及効果が大きいだけに警戒感は強い。
野村総合研究所の大道亮氏は「今後は人口減を背景に住宅新築は漸減が見込まれるが、予測される大工の減少はこれよりさらに早いペースで進む。
人手不足で住宅の供給に制約が生じると、日本経済全体にもマイナスの影響が及びかねない」と話す。
日本経済新聞「大工が20年で半減 若者敬遠、住宅修繕の停滞懸念」から抜粋
大工の修行と言うのは私も経験をして来ましたので、どれだけ厳しいか理解をしています。
私の時代は特にブラックどころか、いじめか奴隷なのかと思うほど、とにかく意味の無い事で親方連中に怒られたものです。
言われた通りにやったとしても全否定をされますし、とにかく意味の分からないダメ出しも多いです。
一言で言って仕舞えば、理不尽極まりない世界と言ってしまう事が出来ると思います。
私が当時見習いで入った頃、60代の大工さん達は昔の方が良かったなどと言っておりました。
それはまだハウスメーカーや建設会社に、仕事を奪われる前の時代なのだと思います。
安定した仕事が欲しいが、エンドユーザーからの注文のみでは食いっぱぐれてしまう。
そして否応なしにハウスメーカーや建設会社の下請けとして、活動する大工さん達が増えました。
こうなると。。
- 汚い
- 厳しい
- キツイ(体も収入も)
これがいわゆる3Kと呼ばれますけど、拗ねた年寄り大工の世話も私の場合はしなければなりませんでした。
そして収入と言うのは一番最初の年で手取りで月額7万円程度。
当時は大工の見習いと言えば、ほとんどの仕事が雑用となります。
現場には立たせてもらえず、各現場を回って職人さんのお茶出しを行ったり、ゴミ捨てや材料を運ぶ事が見習いの仕事でした。
こうなると10時や15時の一服代(お茶やお茶請け)は月額3.5万円ほど掛かります。
この一服代を全て建て替えなければならなかった為、通勤のために購入したバイクのローンを支払うと、手元には一万円残るか残らないかの世界です。
ですが当時の同級生で塗装工や鳶職の友人は、30万円以上の手取りをもらっている状態です。
当たり前と言えば当たり前の話になりますが、私の同級生で横須賀三浦で、大工の見習いに入ったのは私ともう1人だけになります。
さらに日本経済新聞の記事の中では長時間労働も目立つとされていましたが、ひどい時には1日に16時間労働をしないとならない時もありました。
- 賃金が安すぎる
- 休みも無い
- 拘束時間が長い
私の場合はとにかく仕事を覚える事に必死でしたので、お金の事よりもとにかく仕事に対して興味を持っていました。
技能書などを購入して覚えてみたり、自分でとにかく道具をいじり倒して研ぎモノや難しい技術を習得していきました。
ですが当時の同級生から見た私の働きぶりと言うのは、あまりにも異常に見える状態でした。
そんな事をやれと言うのが、そもそも無謀なお話です。
当然ですが大工さんの成り手と言うのは、他の職種に比べて少なく、成り手がほとんど居ないと言う状態になりました。
まだ私たちのところには腕の良い30代の大工さん達が居ますが、とにかく建てまくる建売業者の場合は大工をかき集める事に必死です。
近隣に現場があれば「うちの仕事やってもらえませんか?」と、知らない現場に顔を出してくる始末です。
大工であればなんでも良い様で、年配の大工さんでも仕事を発注します。
ですが年配の大工さん達は、仲間も亡くなったりしている年齢なので上棟作業が出来かねます。
そんな事情がある事から最近では大工さんが上棟作業をするのではなく、建て方屋さんと言うあらたな職種が出来ています。
大工さんみたいな仕事は出来ないけど、重い材料を持ったり組んだりする程度なら出来ると言う新しい職人さん集団です。
3.建売住宅やハウスメーカーに腕の良い大工は居るか?
私が大工の修行を終えて独立した頃、ある作業場を借りた事がありました。
そこは地元の大工さんの作業場の一部を、私が借りて倉庫的なモノを建てました。
その並びはいろんな大工さんが作業場を持たれていて、地域密着の大工さんが2社と石屋さんが一社、某大手ハウスメーカーの下請け大工さんが一社の四社の作業が並んでいました。
地域密着の大工さんは個人の施主様からの依頼を受けて、現場の家を把握した上で適切な仕事を行います。
ですがハウスメーカーの下請けを専門にしている大工さんとは、仕事の話になった時に必ずと言って良いほど噛み合う事がありません。
彼らの意見はこうです。
積⚪︎ハウスの大工の平均単価は決められた工程表通りに終えると、1日当たりで12,000円の日当にしかならないんだよ。
ただしこれでは飯は喰えないから、慣れていくしか無い。
慣れれば工程表よりも早く終わらせる事が出来るから、その分だけ取れる日当も上がっていく。
仕事の良し悪しって考えるよりも、自分の収入を考える必要があるから仕事の内容は割り切ってやってるよ。
一般の依頼主である施主側から見た大工さんと言うのは、やはり腕の良い大工さんに仕事をしてもらいたいと言う気持ちが強いと思います。
大手だから腕の良い大工さんが居ると思う方も居らっしゃるでしょうが、実際に大手の現場で作業をしている大工さんの意見はこんな感じとなります。
当然ですがこれでは私たちと意見が合いませんので、お手伝いを頼みたい時でも頼めないと言う事になります。
もしも私の現場に応援として手伝ってもらってしまったら、ハウスメーカーの仕事のやり方で作業をされてしまうからです。
では建売住宅を専門としている大工さんはどうでしょうか?
私の趣味は、相模湾や伊豆大島で船釣りをするのが趣味となります。
そこで滅多に出会わない大工さんが居ました。
彼はもともと注文住宅の大工さんだったのですが、お金の事を考えて大手建売住宅会社の専門大工となりました。
耐火建築物や準耐火建築物もお手のものですし、建売会社としては任せておけば安心な大工さんです。
腕も良いので常に会社から優遇をされ、仕事を優先して廻してもらえるそうです。
ですがウッドショックが起きた時、10棟以上あった仕事は2棟になり、その後はちょっと読めないと言う状態になったそうです。
彼はなんとか継続して会社から仕事を貰い続ける事が出来ましたが、他に居たたくさんの大工さんは全て会社から首を切られてしまったそうです。
つまり建売住宅の仕事を専門にしている大工さんの中にも、過去には注文住宅を建てられる腕の良い大工さんは実際に居ます。
ですが建売住宅会社は無数の棟数を建てている訳ですから、その大工さんに当たる確率と言うのは宝くじに当たるのと同じくらいです。
この様に大手ハウスメーカーも腕の良い大工とは言えず、生活のためにハウスメーカーの下請けに廻ってしまった大工さんも居ます。
建売住宅会社にも僅かながら腕の良い大工さんは居るかもしれませんが、その大工さんに当たる確率は宝くじと同等です。
つまり大手ハウスメーカーや建売会社に依頼をする上で、腕の良い大工さんを期待するのは宝くじに当たる事と同じと言って良いかもしれません。
4.腕の良い大工はどこに居る?
私も元々、大工の棟梁まで務め上げた職人さんでした。
棟梁時代に一般個人の施主様から直接仕事を頂く事も多かったですし、口コミから口コミで仕事が繋がる棟梁でした。
では腕の良い大工とは、どこに居るのでしょうか。
腕の良い大工と言うのは、大工仕事の事を理解してくれる工務店に就く習性があります。
仕事と言うのは簡単な仕事から、高い技術が必要になる難しい仕事もあります。
それこそピンからキリまである訳です。
例えば簡単な仕事であれば、棟梁が2日間の作業で終わるとしましょう。
それであれば2日分の日当が出るのであれば、大工さんは文句も言いません。
ですが7日間ほど作業にかかる仕事があったとして、それを3日間の予算でやって欲しいと頼む現場監督も居ます。
これって普通におかしい事だと分かる話なのですが、住宅業界はクレーム産業とも言われている業界です。
嘘の様な話ですが、罷り通ってしまっている事も否定できません。
私も今まで、数名の現場監督さんを雇った事があります。
ですが経験者の全ては概ね、積算と言う工数を数える事が出来ませんでした。
分からないのであれば分からないと、大工さんに聞いてくれれば良いものの。
分からない人が分かっていない状態でお客様と打ち合わせを行い、無理な予算で作業を押し付けられてしまうのは大工さんも嫌がります。
最初の数回は仕方無しと、お願いされてやってくれる事はあるかもしれません。
ですがそれが当たり前になってくれば、大工さんも生活に直結します。
さらに大工の棟梁たるものは、仕事をする道具は全て自分の所有物を使って仕事をします。
道具の買い替えのたびに、全て経費で消えてしまいますから。
それらを理解してもらえない会社の仕事は、一切断ると言う形になってしまいます。
逆を言ってしまえば大工さんの事を理解してくれる会社に、腕の良い大工さんは集まります。
ここだけの話ですが、私も元大工の棟梁から工務店の社長になっています。
見積もりなどは自分の出来るスピードで計算するのではなく、ある程度のスピード感で積算を行う様にしています。
それは元大工だから分かると言う部分もあるのですが、それを大工さんにそのままぶつけるかと言えば・・・
こんな感じの仕事だと、こんな感じで進めて行ったとして、このくらいを見ておけば良いかなぁ?
綺麗に仕上げたいと思っているので、見てもらってなにかおかしいところがあれば、アドバイスを貰いたいんですけど。
と言う感じで、私の場合は相談をする様に心がけています。
これは腕の良い大工さんのみならず、全ての職人さんに対して同じ様な相談を行います。
つまり腕の良い大工さん、または腕の良い職人さんと言うのは。
この現場監督さん、この社長さんはちゃんと仕事を理解していて、それでもちゃんと相談をして来てくれる。
俺たちの事を理解してくれているからこそ、俺たちも中途半端な事は出来ない。
しっかりと綺麗に収められる様、こんな感じでこれくらいの予算があると良い。
と言う様な会話が普通に成立するのですが、それを実際に出来る方と言うのが実際に居ないと言う現実があります。
この様に腕の良い大工さんや腕の良い職人さんを集めている会社と言えば、地域に根付く工務店である事が多いと思います。
私の会社も同じ事なのですが、地元で悪い噂が立ってしまうと仕事になりません。
まずは品質良く家を建てる為には、腕の良い大工さんや腕の良い職人さんたちの力が欠かせないのです。
そして工務店としてなにかあったらすぐに駆けつけると言うフットワークの軽さが、地元の工務店として評価されるのが今時の仕組みだからです。
この様な考えの元、地域で人気の工務店に腕の良い大工が集まる傾向があります。
また今後は未来に対して、希望を持てる大工の育成を行う事が必要不可欠となっています。
となれば私の修行時代とはまったく真逆である育成方法が必要ですし、覚えやすいシステムや仕事の楽しさをアピールする必要も出て来るかと思います。
当然の話ですが、賃金に関してもしっかりとした収入を確保出来る事が条件となります。
つまり今後は腕の良い職人さんを育成しようとすれば、建築費もそれなりの費用を捻出する必要が出て来ると言う事に繋がります。
少しでも安く家を建てたい方向けではなく、腕の良い職人さんに家を建ててもらいたい。
この様に思われる方は、それらを見越した資金の計画が必須になると思います。
元大工の私が言う事なので、まず間違い無い情報だと思っていただけば幸いです。
5.まとめ
いかがでしたか?
腕の良い大工はどこにでも居るのではなく、ごくごく限られた一部だけと言って良いほど減少してしまっています。
もしもあなたが腕の良い大工さんに新築やリフォームを頼みたいなら、まずは候補に挙げている工務店の現場に行ってみる事をお勧めします。
休憩中の大工さんや職人さんと話をすれば、その会社が腕の良い大工さんや職人さんたちを大切にしていると言う事ははっきり分かると思います。
なぜなら腕の良い職人さんと言うのは、仕事には真っ直ぐに打ち込む傾向がありますが・・・
私の経験上では、割と嘘が付けない方が多いので、違和感があれば顔に出ると思います(笑)
もしもあなたが家を建てる地域が中尾建築工房の施工エリアと同じ場合は、私にもご相談を頂ければ幸いです。
元大工棟梁である私が認めた腕の良い大工が、あなたの家づくりの為に腕前を発揮する事をお約束させて頂きます。